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東京高等裁判所 昭和28年(う)3783号 判決 1954年3月31日

控訴人 被告人 磯部覚 外五名

弁護人 糸賀悌治 八木下繁一

検察官 小西太郎

主文

被告人等の本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、末尾に添付した被告人等の弁護人糸賀悌治同八木下繁一共同作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載のとおりである。これに対し次のとおり判断する。

論旨第一点について。

記録を調査すると被告人中根正吾は原審において他の相被告人等と同じく本件公職選挙法違反事件につき弁護士糸賀悌治と弁護士八木下繁一を弁護人に選任していたところ、原審第一回公判期日において原審裁判官は被告人中根を除く他の相被告人等の主任弁護人を糸賀悌治と指定していることが認められるにかかわらず被告人中根の主任弁護人の指定があつたことは記録上認められないのである。しかし原審第一回乃至第五回各公判調書によると、被告人中根の弁護人のうち糸賀悌治は、公判期日において被告人中根の主任弁護人の指定を受けたもののように他の相被告人についてしたと全く同様に被告人中根のため主任弁護人である地位に基く被告事件に対する陳述、書証の同意不同意、証人尋問、最終陳述等をしていて、終始主任弁護人としての訴訟行為をしていることが認められるのであるから、同弁護人が所論のように被告人中根についても主任弁護人に指定されたことが記録上認められないとしても、同弁護人が右のように主任弁護人に指定されたと同様に訴訟行為をしたものである以上被告人中根が特に所論のような防禦のために不利益を受けたものとは認められない。従つて被告人中根について主任弁護人の指定がなかつたとの原審訴訟手続上の違背が判決に影響を及ぼすものとは到底認められないのであるから、被告人中根に関し法令違背を主張する論旨は結局理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

控訴趣意

第一点原判決中被告人中根正吾に対する部分については訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすものがある。即ち、被告人中根正吾は弁護人として弁護士糸賀悌治(弁護人選任届、土浦簡易裁判所昭和二十八年(う)第一一四号事件第七丁)と弁護士八木下繁一(弁護人選任届、同事件第十四丁)とを選任して居るから刑事訴訟法第三十三条に依り主任弁護人を指定しなければならないことは明かである。然るに右被告人に対しては主任弁護人を指定することなく訴訟手続を進行した。(前記裁判所昭和二十八年(う)第一〇一号事件第一八丁参照)右は明かに訴訟手続に法令の違反がある場合に該当し右違反は訴訟手続中各弁護人は何れが主任弁護人であるか指定されていないから責任感の点からも充分の弁護を為さゞる虞あり判決に影響を及ぼすこと明かなものである。仍つて先ず此の点に於いて被告人中根正吾に対する原判決は破毀をまぬがれない。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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